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枝変わり突然変異の分子メカニズムを探るハナモモ花色発現機構の解明


 源平咲き立ち性ハナモモ
 (斑入り花やピンク花が一本
 の木に混在する)











ハナモモのアントシアニン色素合成系遺伝子の転写因子をコードする遺伝子’PEACE’の単離

 果樹育種において枝変わり突然変異は重要な遺伝的変異作出の方法として利用されています。枝変わり突然変異とは、ある枝だけが突然異なった遺伝的特徴を持つようになる現象です。例えば元の枝よりも果実が早熟(早生)になったり、晩熟になったり(晩生)する場合や、果実の着色が良くなったり、悪くなったりします。その他にも農業上重要な特性が変化することが知られています。接ぎ木などの栄養繁殖によって変異した遺伝的特徴は残され、これまで多くの新品種が生み出されてきました。特にモモやカンキツにはたくさんの枝変わり品種があります。しかし枝変わり突然変異の出現メカニズムは明らかになっていません。 
 私たちはモモ(学名Prunus persica)と同じ種であり、花を愛でる観賞用のハナモモを用いてこの現象のメカニズムの解明を目指しています。ハナモモの中には源平咲きという一本の木にピンクの花や白地にピンクの斑が入った花が咲く咲き分け系統があります。この咲き分けは頻繁に起きますがその中で、斑入り花をつける枝に完全にピンクに復帰した花が咲いた場合、翌年以降そこから伸びた枝に再び斑入り花が咲くことはありません。この現象は枝変わり突然変異だと考えられ、キンギョソウやアサガオ、ペチュニアでみられる易変性の斑入り変異と類似しています。これらの植物ではトランスポゾンというゲノム内を動き回るDNAによって変異が引き起こされることも知られています。





 私たちはこの斑入り起こす原因遺伝子を見つける過程でピンク花の着色に関与する遺伝子を単離することに成功しました。この遺伝子に`PEACE`(PEach Anthocyanin Colouration Enhancement)と命名しました。この遺伝子はアントシアニン色素を合成するために必要な酵素をコードする遺伝子の発現を制御している転写因子であることが明らかになりました。現在PEACEがどのような発現調節をうけることによって斑入りやピンクの花をつけるようになるのか調べています


なおこの研究の主要部分は大阪市立大学理学部附属植物園 植松研究室で進められています。また英国John Innes Centre、アプライドバオシステムズとの共同研究です。




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